振込先変更の詐欺と誤送金を防ぐ経理の支払チェック体制

振込先変更の詐欺と誤送金を防ぐ経理の支払チェック体制

この記事のポイント

  • 口座変更の依頼はメールの見た目で判断せず、登録済みの電話番号で確認する
  • 振込先を変えた人と承認した人が同じにならないよう職務を分ける
  • 誤送金はすぐ組戻しを依頼し、返してもらう資金は未収入金・仮払金で処理する

支払業務の事故には、大きく分けて「だまされて別の口座に払う」ものと「自分たちのミスで違う口座や違う金額を払う」ものの2種類があります。

どちらも、いったんお金が出ていくと取り戻すには相手の協力が必要になり、時間も手間もかかります。

この記事では、振込先の変更依頼を悪用した詐欺と、社内の誤送金・過払いの両方を対象に、支払前の確認体制と、起きてしまった後の初動・仕訳をまとめます。

振込データの作り方そのものは「総合振込の実務ガイド」で扱っているので、ここでは「確認と統制」に絞ります。

取引先を装った口座変更依頼の典型的な手口

取引先や自社の役員になりすましたメールで送金させる手口は「ビジネスメール詐欺(BEC)」と呼ばれ、IPA(情報処理推進機構)なども注意を呼びかけています。

一般的に次のような特徴があります。

  • 「口座が監査中で使えない」「銀行を変更した」など、口座変更の理由をもっともらしく説明する
  • 「今日中に」「今回の支払分から」と急がせ、電話での確認を避けるよう求める
  • 送信元アドレスが本物と1文字違う、または表示名だけ本物で返信先(Reply-To)が別のアドレスになっている
  • 過去の本物のやり取りの続きに割り込み、請求書PDFの振込先だけを差し替えて送ってくる
  • 変更後の口座の名義が取引先の社名と一致しない、または海外の口座を指定してくる

見た目では見分けられない

本物の取引先のメールアカウントが乗っ取られている場合、アドレスを見ても見分けられません。

したがって、「メールの見た目で判断しない」ことを前提に、手順で防ぐのが現実的です。

口座変更の依頼を受けたときの確認手順

  1. その場で変更しない依頼を受けた担当者は、その場で振込先マスタを変更しない。依頼メールや書面を「口座変更申請」として記録する
  2. 登録済みの番号へ折り返す依頼メールに書かれた電話番号ではなく、契約書や過去の名刺、振込先マスタに登録済みの電話番号へ折り返す
  3. 先方に読み上げてもらう電話では、普段の担当者本人に「変更の有無・新しい銀行名・支店・口座番号・名義」を先方から読み上げてもらう(こちらから読み上げて「はい」と言わせない)
  4. 確認結果を記録する確認した日時・相手の氏名・確認者を申請記録に書く
  5. 別の人がマスタを更新するマスタの更新は、確認した担当者とは別の人が申請記録を見て行う
  6. 最初の支払いは新旧を並べて承認変更後の最初の支払いは、承認者が新旧の口座を並べて見たうえで承認し、支払後に先方へ入金確認の連絡を入れる

口座変更の申請記録は、次のような項目の表で十分です。

記録する項目記入例
受付日2026/10/01
取引先株式会社サンプル商事
変更内容(新口座)○○銀行 △△支店 普通 1234567
確認方法・相手登録済み番号へ電話・経理部の担当者
確認者A
マスタ更新者B

支払承認の職務分掌を表にしておく

ネットバンキングの権限を「作成」と「承認」に分ける考え方は「法人口座の選び方チェックリスト」で触れています。

支払事故を防ぐには、銀行の権限だけでなく、マスタ管理や事後照合まで含めて担当を決めておきます。少人数の会社を想定した例です。

作業経理担当経理責任者社長
請求書の受付・支払予定表の作成実施確認―
振込先マスタの新規登録・変更申請・電話確認更新―
振込データの作成実施――
振込の承認・実行不可承認(一定額以下。口座変更後の初回を除く)承認(一定額超・新規先・口座変更後の初回)
翌営業日の出金明細との照合―実施月1回閲覧

この例では、振込先マスタを更新するのは経理責任者なので、口座変更後の初回の支払いは金額にかかわらず社長が承認します。口座を変えた人が、その口座への支払いを自分で承認しないためです。

2人の会社でも分けられる

2人しかいない会社では、経理担当が作成し社長が承認するだけでも効果があります。

大切なのは「振込先を変えた人」と「その口座へのお金を承認した人」が同じにならないことです。

振込前チェックリスト

確認項目見るもの
□請求書の金額・支払期日と支払予定表が一致している請求書原本(データ)
□同じ請求書番号がすでに支払済みになっていない支払予定表の過去分
□振込先が請求書の記載ではなくマスタから選ばれている振込データの振込先
□今回、新規登録・口座変更した先がある場合は申請記録がそろっている口座変更の申請記録
□前月と比べて金額が大きく増えた先に理由がある前月の支払予定表
□合計件数・合計金額が支払予定表と一致している振込データの合計

誤送金に気づいたときの初動

  1. 仕向銀行に組戻しを依頼振込を依頼した銀行(仕向銀行)にすぐ連絡し、組戻し(振込の取消し・返金)を依頼する。受付済みで未処理なら取消しできる場合もある
  2. 同意・手数料・書類を確認組戻しは、入金済みであれば受取人の同意が必要で、手数料がかかるのが一般的。手数料や必要書類は各行の案内で確認する
  3. 実在の取引先なら合意を記録払い先が実在の取引先(二重払い・金額違い)なら、先方に連絡して返金か次回支払との相殺かを合意し、メール等で記録を残す
  4. 詐欺が疑われるなら銀行・警察へ詐欺が疑われる場合は、銀行に詐欺の可能性を伝えて対応を相談し、警察にも相談する。本物の取引先にも連絡し、相手側のメールが乗っ取られていないか確認してもらう
  5. 経緯をまとめて報告経緯(いつ・誰が・どの口座に・いくら)を時系列でまとめ、社長と顧問税理士に報告する

誤送金・過払いの仕訳例

二重払いをして返金を受ける場合

買掛金220,000円を支払った後、同じ請求書でもう一度220,000円を振り込んでしまった例です(金額は仮のもの)。

2回目の支払いは買掛金ではなく、返してもらう権利として未収入金で処理します。

2回目の振込時
借方金額貸方金額
未収入金220,000普通預金220,000
返金を受けたとき
借方金額貸方金額
普通預金220,000未収入金220,000

返金ではなく翌月の支払いと相殺する場合は、「買掛金220,000/未収入金220,000」で消し込み、翌月の振込額を220,000円減らします。

なお、相殺したことは先方との合意内容とあわせて支払予定表にも書いておきます。

詐欺口座へ振り込んでしまった場合

本物の取引先への買掛金550,000円を、偽の口座へ振り込んでしまった例です。

買掛金は減らさない

取引先への支払義務は消えていないため、買掛金を減らしてはいけません。出金は回収を試みている資金として仮払金(または未収入金)で処理します。

偽口座への振込時
借方金額貸方金額
仮払金550,000普通預金550,000
本物の口座へ支払ったとき
借方金額貸方金額
買掛金550,000普通預金550,000

組戻しなどで戻ってきた分は「普通預金/仮払金」で消し込みます。また、組戻し手数料は支払手数料で処理します。

回収の見込みがなくなった場合の損失の計上時期や勘定科目は状況によって判断が分かれるため、顧問税理士に確認してください。

仮払金が残っている間は、月次決算チェックリストの残高確認で毎月状況を確かめます。

支払チェックでよくある間違い

依頼メールへの返信で「変更は本当ですか」と確認する

返信先が詐欺師の可能性がある。必ず登録済みの電話番号で確認する

請求書PDFに書かれた口座へそのまま振り込む

振込先は常にマスタから選ぶ。請求書との不一致は口座変更の手順に回す

社長名の「至急」メールで承認を省略する

社長からの依頼でも手順は同じと、社長自身が事前に宣言しておく

誤送金を「買掛金」のまま処理してしまう

返してもらう資金は未収入金・仮払金に振り替え、残高を毎月確認する

承認者が合計金額しか見ていない

新規先・口座変更先・前月比で増えた先だけは明細単位で見る

チェックリストや支払予定表は、表計算で作っておくと前月との比較や重複チェックが簡単になります。

関数の使い方は「経理のExcel術」を参考にしてください。

よくある質問

取引先から振込先の口座変更を依頼されたらどう確認する?

その場で振込先マスタを変更せず、依頼メールに書かれた番号ではなく、契約書や振込先マスタに登録済みの電話番号へ折り返して確認します。電話では普段の担当者本人に、新しい銀行名・支店・口座番号・名義を先方から読み上げてもらいます。

ビジネスメール詐欺(BEC)とは?

取引先や自社の役員になりすましたメールで送金させる手口です。口座変更の理由をもっともらしく説明し、急がせて電話での確認を避けるよう求めるといった特徴があります。

誤送金してしまったらどうすればいい?

すぐに振込を依頼した銀行(仕向銀行)に連絡し、組戻しを依頼します。返してもらう資金は買掛金のままにせず、未収入金や仮払金で処理し、残高を毎月確認します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法務等の個別の助言ではありません。具体的な判断は税理士等の専門家にご相談ください。