この記事のポイント
- 最初に業務の棚卸し表を作り、書く業務の数と優先順位を決める
- 手順書は1業務1枚・同じ項目順で、前提と例外対応まで書く
- 年1回、副担当が手順書だけで作業して抜けを見つける
経理の手順書が役に立たない原因は、たいてい「書いてあるのに、その通りにやっても終わらない」ことです。前提条件や例外の扱いが抜けていると、結局前任者に聞くしかなくなります。
そこでこの記事では、業務の棚卸しから1業務1枚の手順書、更新と引き継ぎのルールまでを、そのまま写して使えるテンプレートと記入例で示します。
最初に業務の棚卸し表を作る
いきなり手順を書き始めると、どこまで書けば終わりなのかが分かりません。まず担当している業務を1行1業務で書き出し、全体の数と優先順位を決めます。
| No.・業務名 | 頻度 | 期限 | 担当(正/副) | 使うシステム | 手順書 |
|---|---|---|---|---|---|
| 01 月末の売上計上 | 月1回 | 翌月1営業日 | A/B | 販売管理、会計ソフト | 作成済 |
| 02 仕入・経費の計上 | 月1回 | 翌月2営業日 | A/B | 会計ソフト | 未 |
| 03 総合振込データの作成 | 月2回 | 10日・25日の2営業日前 | B/A | ネットバンキング | 未 |
| 04 預金残高の照合 | 週1回 | 毎週月曜 | B/A | 会計ソフト、ネットバンキング | 未 |
| 05 源泉所得税の納付 | 月1回または年2回 | 翌月10日など | A/B | e-Tax | 未 |
書く順番
手順書を書く順番は、「期限に遅れると外部に迷惑がかかる業務」「担当が1人しかいない業務」「年に数回しかなく忘れやすい業務」を優先します。
一方、毎日の仕訳入力のように誰でも見て覚えられる業務は後回しで構いません。
棚卸し表はExcelで作り、担当や手順書の有無で絞り込めるようにしておくと便利です(経理のExcel術)。
1業務1枚の手順書テンプレート
手順書は1業務につき1ファイルにし、どの業務も同じ項目順で書きます。項目がそろっていると、読む側は探す場所に迷いません。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| 業務名・No. | 棚卸し表と同じ名前と番号 |
| 目的 | 何のための作業か、どうなったら完了か |
| 前提 | 開始できる条件、必要な権限、事前にそろっているべき資料 |
| 手順 | 番号付きで、1行1操作 |
| チェックポイント | 完了前に確認する数字や状態 |
| 例外対応 | よくある例外と、その時の処理・相談先 |
| 関連書類 | 使う帳票、保存場所、関連する他の手順書 |
| 版数・更新日・更新者 | 最後に誰がいつ直したか |
記入例:月末の売上計上
棚卸し表のNo.01を、上のテンプレートで実際に書くと次のようになります。
販売管理システムで請求書を発行し、会計ソフトへは月末にまとめて計上している会社を想定しています。
- 目的
- 当月に納品・役務提供が完了した売上を、漏れなく当月の売上として会計ソフトに計上する。売掛金の残高が、販売管理システムの請求残高に未請求の見積計上額を加えた額と一致したら完了。
- 前提
- 営業部から当月の納品完了報告が出そろっていること(期限は月末日)。販売管理システムの請求書発行権限と、会計ソフトの仕訳入力権限があること。
手順:
- 未発行分を一覧にする販売管理システムで、当月の納品完了分のうち請求書が未発行のものを一覧で出す
- 請求書を発行する未発行分の請求書を発行する(金額・登録番号・税率ごとの消費税額の表示を確認)
- 請求一覧を保存する当月分の請求一覧をCSVで出力し、共有フォルダの「売上/2026年9月」に保存する
- 会計ソフトに取り込む会計ソフトにCSVを取り込み、取引先ごとに売掛金/売上高の仕訳を作る
- 未請求分は見積計上納品済みで請求が翌月になるものは、見積額で当月に計上し、摘要に「未請求」と書く
仕訳の見本と確認・例外の書き方
手順書には仕訳の見本も1つ載せておきます。たとえば、税抜300,000円、消費税10%の取引なら、請求額は300,000+30,000=330,000円です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金(取引先名) | 330,000 | 売上高 | 300,000 |
| 仮受消費税 | 30,000 |
(税抜経理の場合。税込経理なら売上高330,000円の1本になります)
- チェックポイント
- 会計ソフトの当月売上高=販売管理の当月請求合計(税抜)+未請求の見積計上額、になっている。取引先別の売掛金残高も、販売管理の請求残高+未請求の見積計上額と一致している。
- 例外対応
- 値引き・返品は、元の請求書を差し替えるのか、翌月の請求で調整するのかを経理責任者に確認し、決まった処理をこの欄に追記する(値引き・返品では返還インボイスの交付が必要になる場合がある)。(参考:国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問27 適格返還請求書の交付義務」)納品日が月をまたぐ場合は、納品書の日付を基準にする。
- 関連書類
- 納品完了報告、請求書控え(電子データで保存)、請求一覧CSV。請求書の記載事項は「請求書の作り方」、納品書との関係は「見積書・納品書・請求書の違い」を参照。
画面キャプチャの付け方
- 1枚のキャプチャに操作は1つだけ。押すボタンを赤枠で囲み、手順の番号と同じ番号を書き込む
- 画面全体ではなく、メニューの位置が分かる範囲まで切り取る
- 取引先名・口座番号・金額などは塗りつぶすか、テスト用のデータで撮る
- キャプチャの下に撮影した年月を書く。システムの画面が変わったとき、古い画像を見分けられる
画面は予告なく変わる
クラウドのシステムは予告なく画面が変わることがあるため、キャプチャは「どこを押すか」が分かる最小限にとどめ、ボタン名は本文にも文字で書いておきます。
そうすれば、画像が古くなっても文字で追えます。
更新ルールを決めておく
- 置き場所は1か所置き場所は共有フォルダ1か所に限定し、個人のパソコンにコピーを置かない
- その日のうちに直す手順書と違うやり方をした日は、その日のうちに手順書を直し、版数と更新日を上げる
- 変更・改正があったら見直す会計ソフトや銀行の画面変更、税制改正があったら、関係する手順書を棚卸し表で洗い出して見直す
- 年1回、副担当が試す年1回、副担当が手順書だけを見て作業し、つまずいた箇所を書き足す
別の人が手を動かす
4番目の「副担当が手順書だけで作業する」確認が最も効果的です。
というのも、書いた本人は前提を無意識に省いてしまうため、別の人が実際に手を動かして初めて抜けが見つかります。
引き継ぎ時のチェックリスト
| 確認項目 | 済 |
|---|---|
| 棚卸し表の全業務に手順書があり、最新版になっている | □ |
| 後任者のシステムID・権限が発行され、前任者の権限を削除する日が決まっている | □ |
| 月次・年次の期限一覧(納付・申告・支払日)を渡した | □ |
| 処理途中の案件(未回収の売掛金、確認待ちの請求書など)を一覧で渡した | □ |
| 取引先・金融機関・顧問税理士などの連絡先と、担当変更の連絡を済ませた | □ |
| 後任者が手順書を見て、1回分を前任者の立ち会いで処理した | □ |
月次の業務は、前任者がいるうちに少なくとも1回、後任者が手順書だけを見て最後まで処理しておくのが理想です。
また、締めの全体像は「月次決算チェックリスト」と棚卸し表を突き合わせると、抜けている業務に気づけます。
手順書づくりでよくある失敗
「いつもの通り処理」など、書いた本人にしか分からない表現が残る
副担当に読んでもらい、質問が出た箇所を具体的な操作に書き換える
例外対応が書かれておらず、例外のたびに前任者に聞く
例外が起きた日に、処理と判断者を例外対応の欄へ追記する
判断が必要な部分まで手順化して、誤った処理が続く
判断が要る箇所は「〇〇に確認」と相談先を書き、手順書で決めない
最初から全業務を書こうとして途中で止まる
棚卸し表の優先順位の高い3業務から書き、月1本ずつ増やす
手順書がそろうと、繁忙期だけ外部に依頼する、業務の一部を委託するといった選択肢も取りやすくなります。
委託を検討する際の判断基準は「バックオフィスのアウトソーシング」にまとめています。
よくある質問
経理の業務マニュアル(手順書)は何から作ればいい?
まず担当している業務を1行1業務で書き出した棚卸し表を作り、全体の数と優先順位を決めます。書く順番は「期限に遅れると外部に迷惑がかかる業務」「担当が1人しかいない業務」「年に数回しかなく忘れやすい業務」を優先し、毎日の仕訳入力のように誰でも見て覚えられる業務は後回しで構いません。
経理の手順書には何を書けばいい?
1業務1ファイルにし、業務名・No.、目的、前提、手順、チェックポイント、例外対応、関連書類、版数・更新日・更新者を、どの業務も同じ項目順で書きます。前提条件や例外の扱いが抜けていると、その通りにやっても終わらず、結局前任者に聞くしかなくなります。
経理マニュアルを使える状態に保つ更新ルールは?
置き場所は共有フォルダ1か所に限定し、手順書と違うやり方をした日はその日のうちに直して版数と更新日を上げます。最も効果的なのは、年1回、副担当が手順書だけを見て作業し、つまずいた箇所を書き足す確認です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、税務・法務等の個別の助言ではありません。具体的な判断は税理士等の専門家にご相談ください。
